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東京地方裁判所 昭和38年(行)61号 判決 1967年4月19日

原告 豊田被服株式会社

被告 神田税務署長

代理人 国吉良雄 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一、原告の係争事業年度の法人税確定申告に対し、被告がその主張(事実摘示第二被告の答弁及び主張に記載)のように更正処分をしたこと及び係争事業年度の所得金額について、次に掲げる争点に関する部分を除いて、被告の主張(前同)するように原告の申告所得金額に加算又は減算すべき各金額の存することは当事者間に争いがない。

本件の唯一の争点は、原告の係争事業年度の所得金額に

(1)  原告所有の東京都千代田区松枝町四〇の六所在の店舗一棟二三坪四合六勺及び同所同番地所在の鉄骨モルタル二階建居宅一棟延三五坪延八合(以下一括して建物Aという。)の譲渡益計上洩 二三九、一九六円

(2)  建物Aの敷地である東京都千代田区神田松枝町四〇番地六宅地四五坪四合六勺(以下土地Aという。)の借地権の譲渡益計上洩 一三、四二二、九一〇円

が加算されるべきか否かにあるので、以下この点について判断する。

二、先ず次の諸事実は当事者間に争いがない。

(1)  原告は係争事業年度中の昭和三四年一〇月二七日、訴外早川護正との交換契約により建物A及びその敷地である土地Aの借地権(土地Aの所有者は原告代表者豊田光雄である。)と、早川所有の東京都千代田区松枝町三七番地二宅地三七坪一合一勺(以下土地Bという。)とを交換した。

(2)  右土地Bの上には早川所有の東京都千代田区神田松枝町三七番地二所在木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二五坪二合五勺、同所同番地所在木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗一棟建坪八坪、同所同番地所在木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅一棟建坪六坪二合五勺の各建物が存在し、他に早川は東京都千代田区神田和泉町一番一二五一宅地一九坪四合五勺、同所同番地所在木造平家建居宅一棟建坪七坪五合(以下これらを一括して資産Bという。)を所有していたところ、前記原告及び早川間の交換契約と同時にこれと一体をなして、早川と原告代表者豊田光雄との間に、資産B及び土地Bに対する早川の借地権と土地Aとが交換された。

(3)  前記各交換に当つては交換差金の授受はいずれもなされなかつた。各不動産の交換当時の時価並びに建物A及び土地Aの借地権の帳簿価額は次のとおりである。

建物A 価額(時価評価による。以下同じ。)  一、四五四、八〇〇円

簿価(期首より譲渡時期迄減価償却済) 一、二一五、六〇四円

土地A 借地権価額             一三、九二二、九一〇円

同簿価                  五〇〇、〇〇〇円

底地価額               一、五四六、九九二円

土地B 借地権価額             一三、一九四、六七五円

底地価額               一、四六六、〇七五円

資産B 価額                 三、八七七、九七五円

(4)  原告は係争事業年度において右(1)の交換により取得した土地Bについていわゆる圧縮記帳の決算処理を行わず、旧法人税法施行規則一三条の六、七の要件が具備しないため、いわゆる圧縮記帳による損金算入を認める余地はなく、建物Aについてはその価額一、四五四、八〇〇円からその簿価金一、二一五、六〇四円を差し引いた残金二三九、一九六円の譲渡益を、土地Aの借地権についてはその価額金一三、九二二、九一〇円からその簿価金五〇〇、〇〇〇円を差し引いた残額金一三、四二二、九一〇円の譲渡益を、それぞれ生じた。

三、右の事実関係によれば、前記二、(1)の資産の交換により、建物A及びその敷地である土地Aの借地権の譲渡益合計金一三、六六二、一〇六円が係争事業年度における原告の所得計算上益金に含まれることが明らかであるが、原告は、この益金計上と関連対応して、右の交換により、建物A及び土地Aの借地権(価額合計金一五、三七七、七一〇円)を失つた代償として土地Bの底地(価額金一、四六六、〇七五円)を得たものであり、その差額金一三、九一一、六三五円相当の損失を受けたことになるから、それは交換によつて被つた譲渡損として損金に計上されるべきものであると主張する。

元来法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前)九条一項の総益金、総損金には、狭義の営業利益、営業損失だけでなく、たとえば固定資産の値上り、値下りによつて生じた経済的価値の増減のうち対第三者の関係において実現したものや法令の認める範囲内で法人の税務計算において計上された固定資産の評価損益なども算入されるべきものと解せられる。そして本件の場合、建物A及び土地Aの借地権の値上による利益(取得価額、すなわち帳簿価額を上廻る部分)価額合計金一三、六六二、一〇六円相当(この点については当事者間に争いがない。)は、もともと未計上の資産であるが、これが右の交換により社外に流出し、この未計上の利益が収益として実現したものとして、前記のとおり益金に計上せられるべきものである。

ところで、原告が右交換によつて取得した土地Bの底地の価額(金一、四六六、〇七五円)は、譲渡資産である建物A及び土地Aの借地権の帳簿価額(合計金一、七一五、六〇四円)にも及ばず、また土地Bについていわゆる圧縮記帳の決算処理が行なわれなかつたことは、前に確定したとおりである。従つて、原告の右主張が、建物A及び土地Aの借地権の価額と土地Bの底地の価額との差額(金一三、九一一、六三五円)全部が無条件に損金に計上せられるべきであるというのであれば(そのように解するほかない。)それは、右の社外流出分として計上した収益(金一三、六六二、一〇六円)全部を、単に右社外流出分が経済的損失に当るというだけで無条件に否定するものにほかならず、到底採用することはできない。

四、次に、原告は、右建物A及び土地Aの借地権の価額と土地Bの底地の価額との差額金の一部は法人税法基本通達(昭和二五年九月二五日付直一―一〇〇)七七号の適用により寄附金計算の限度において損金に計上されるべきであると主張する。

右通達は「法人が有する資産を著しく低い価額で譲渡した場合には、当該譲渡価額とそのときにおける当該資産の価額との差額に相当する金額を相手方に贈与したものと認められるときは、当該差額に相当する金額は、これを寄附金として取り扱うものとする。」と定めている。これを本件についてみると、前記で確定した事実によれば、原告がその資産(総価額金一五、三七七、七一〇円)を交換により早川に譲渡し、その代償として早川の有していた資産(価額金一、四六六、〇七五円)を取得したのであるから、右交換は右通達にいう「資産を著しく低い価額で譲渡した場合」に当たるものということができる。しかし、前記で確定した事実によれば、原告と早川との間の資産の交換は、早川と豊田との間の資産交換と一体をなして行なわれたものであるところ、これを早川の側から考察すれば、価額合計金一八、五三八、七二五円の資産を移転した代償として原告及び豊田から価額合計金一六、九二四、七〇二円の資産の移転を受けたことになり、結局早川は本件各交換によつて格別利益を受けていないということができる。これに反して豊田は前記土地Aの底地(価額金一、五四六、九九二円)を早川に移転した代償として前記資産B(価額金三、八七七、九七五円)及び前記土地Bに対する借地権(価額金一三、一九四、六七五円相当)を取得したことになる。

以上の諸事実を総合すれば、豊田がこのような利益を得たのは、豊田の同族会社である原告会社(この点は当事者間に争いがない。)が前記のように、早川との交換においてその資産を著しく低い価額で移転したことの結果であり、結局、原告がその有する資産を著しく低い価額で譲渡したことにより社外に流出した利益金一三、九一一、六三五円は、早川にではなく、豊田に帰したものと認めるのが相当であつて、原告が早川に対し原告の取得資産と譲渡資産との差額を贈与する意思を有し、かつこれを贈与したものとは到底認めることができない。右認定に反する証拠はない。従つて寄附金計算の限度による損金算入をしなかつた被告の処分は正当であり、原告のこの点についての主張は理由がない。

五、以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、この外に被告の処分要件について原告は明らかに争わないので、結局被告のなした本件更正処分は適法であるから、原告の請求を失当として棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 中川幹郎 前川鉄郎)

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